Google+

着物学

日本きもの学会誌「きもの学研究」(pdfファイル)を掲載しています。

きものと健康
~きもの健康学の幕開け
-高橋 裕子
次世代のきもの着用を促進する道筋の研究
(第一報)
~幼稚園児の母親調査から
~安倍智子
大和機と厩機一江戸時代 西と東の描線一
植村 和代
大学における浴衣実習プログラムとその心理
学的評価
東山 明子について
高橋 裕子
戦時下の京都のきもの産業一室町と西陣-㊨
小谷 浩之
t1本きもの学会
貴掲菅研究...(代)甘
1
きものと健康
~きもの健康学の幕開け~
次世代のきもの着用を促進する道筋の研究
(第一報)
~幼稚園児の母親調査から~
大和機と厩機
―江戸時代
西と東の織機―
大学における浴衣実習プログラムと
その心理学的評価について
戦時下の京都のきもの産業
―室町と西陣―

高橋裕子
高橋裕子
高橋裕子
小谷浩之
安倍智子
植村和代
東山明子
目次
奈良女子大学大学院
博士前期課程
奈良女子大学
奈良女子大学
帝塚山大学
奈良女子大学
経済学博士
花園大学・龍谷大学講師
畿央大学
2
高橋
裕子
きもの学研究
第2号の発刊によせて
日本きもの学会の学会誌「きもの学研究」の第2号が、多くの皆様のご尽力によって発刊され
ますことはまことに喜ばしいことであります。
学会は学術の府であり、 学術誌を有することは学会の基本条件と言っても過言ではありません。
創刊号は波多野進前会長と関係者の皆様の多大な努力によって平成
22

11
月に発刊いただきました。
この創刊号は、学術誌たるにふさわしいすばらしい内容であり、波多野進前会長と関係者の
皆様の高い見識とご努力に、心から尊敬を申し上げます。
創刊号で波多野進前会長は、 「きものという価値ある文化を通じて、日本と日本文化を考え、
発信していくことが学会の目的である」と書いておられますが、 「きもの学研究」の発刊が定着
することを通じて、この目的に近づきつつあることを、会員の皆様とともに喜びたいと思います。
「きもの学研究」の第二号には、日本きもの学会の学会誌にふさわしいいくつもの原稿をお寄
せいただきました。きものについての探求にとどまらず、きものを通じてさまざまな分野への研
究の広がりの可能性を提起する学会誌になっています。執筆くださった先生方、編集にご尽力く
ださった事務局の皆様に深く感謝申し上げますとともに、 今後とも「きもの学研究」が号を重ね、
さらに充実した学術誌として発展しますよう、引き続いてのご支援を御願い申し上げます。
平成
24
年6月
日本きもの学会会長代行
3
はじめに
きもの着用の効用としてしばしば挙げられるのは、精神面へのプラス効果である。世界に比類のない美し
さを有するきものが着用者に適度な緊張感とやすらぎをもたらすことは言を待たない。
しかし身体的な健康面に関しては、残念ながら否定的な意見が多くみられる。 (図1)は日常的にきものを着用しない
18歳から22歳の女子学生245人に「きものは健康に良いかどうか」を質問した結果であるが、 「きものは健康にとても良い」
との回答はゼロであり、 「どちらかというと悪い」 「悪い」との回答が半数を占めた。
自由記述では、 「きもは苦しい」 「帯が窮屈で食事もできない」 「冬寒くて辛い」などきものに対して否定的なイメージを有す
ることを示す回答が多くみられ、自由記載欄には「きものを着て一番嬉しいのは、脱いだときのほっとする感じ」との回答もあった。
これは、きものを着なれた者が有するきもののイメージとはかなり異なる。
筆者を含め日常的にきものを着ているあるいはきものの着用に慣れている者(以下、きもの常用者)
にとっては、きものを着ることは心身の健康にプラスになることであり、帯は適度に背筋を伸ばして快感をもたらしてくれるものであり
、冬の寒さを防いで暖かくしてくれるというのが実感である。しかしながらその実感はきもの着用に慣れていな
い人たちには伝わらず、きものの身体影響についてのマイナスイメージがきもの着用の妨げの一因となっていることが推察された。
きもの常用者が感じている「きものは心身の健康にプラスである」という実感を明確な研究結果として数値や図で示すことができれば、


きも図1 女子学生のきものと健康イメージきものと健康

~きもの健康学の幕開け~
高橋裕子

奈良女子大学
どちらかというと悪い40%
どちらかというと良い20%
とても悪い6%
とても良い0%
影響しない34%
4のの新たなニーズの発掘やきものの普及に繋がる可能性がある。この目的のために、手始めに三つの研究を実施した。
まず、きものは健康に悪いとの意見に対して、きもの常用者におけるきものと健康に関する質問紙調査を実施した。
帯が苦しいとの意見に対しては、きもの常用者と初心者の帯圧を圧シートセンサーを用いて比較した。またきものが冬場に
寒いとの意見に対しては、皮膚温測定装置を用いてきもの着用時と洋装時での皮膚温を測定した。いずれも別論文で詳細を報告するが、ここに結果の概略を提示したい。
きものは健康的?非健康的?きもの常用者はきものが健康に良いと感じているかどうか、また実際に健康的な生活を送っているのかどうかについて質問紙調査を実施した。
調査時期は平成23年7月で、 「日本和装師会」総会参加者240名に協力を依頼して実施した。調査方法
は無記名質問紙法とし、全員に趣旨を説明後、直接配布しその場で記入・回収した。調査非協力の意思表示は白紙提出としが、
白紙回答は無く全員から記入回答を得た。なお質問内容は前述の女子学生と同様とした。
結果を(図2)に示した。きものは健康に「とても良い」 「どちらかというと良い」で75%をしめ、
「とても悪い」は皆無であった。
以上の調査からきもの常用者の多くは、きものの健康影響にプラスイメージを有していることがわかった。
これはきもの初心者の抱いているきものの健康イメージとは逆の結果であったが、では実際にきもの常用者の健康状態はどうであろうか。
前記の調査用紙には国民栄養調査の内容に準じて疾病の有無や飲酒喫煙運動に関する質問など、健康状態に関する質問項目を含んでいた。
その結果は、飲酒や喫煙は年齢補正を実施したのちも国民栄養調査より少なく、運動を定期的に行なっているとの回答者は多かった。
きもの着用時には裾によって足の動きは制限されることに加え、幅のある帯によって前屈が制限されるなど、活動しにくいところがある。
しかしそれによって健康面に悪影響をきたすものではなく、逆に一般女性図2 きもの常用者でのきものと健康イメージ
どちらかというと良い40%
影響しない18%
無記入7%
どちらかと
いうと悪い0%
とても悪い0%
とても良い35%

よりも良好な健康状態を保有するきもの常用者が多かったことは注目に値する。きものは動きにくいとの一般のイメージからすると、
きもの常用者に運動習慣を有する率が高いことは意外と映るであろう。さらにきもの着用による精神的な健康面での
良い影響が、きもの着用時以外に運動など、他の健康行動の活発化につながっていた可能性がある。
帯が窮屈?次は「きものの帯が窮屈」との声に対しての、きもの常用者と初心者の帯圧を圧シートセンサーでの比較
研究の結果を紹介する。
一般に窮屈な感じとは、衣類の皮膚への圧力(被服圧)が高いことに加えて、動きにくさが加わって生じると考えられている。
動きにくさの測定方法としては可動域の測定や運動量の測定が、
被服圧が高いことの測定方法としては被服圧測定が用いられてきた。
今回は、しばしば言われる「帯の苦しさ・窮屈さ」を、被服圧を実測することで明らかにすることを試みた。
ところで従来、被服圧は、バルーンセンサーと呼ばれる機器を用いて測定されてきた。
これは圧センサーの先端に小さい水袋を取り付けたもので、図3にはバルーンセンターを用いての帯圧測定を示した。
狭い範囲の圧力を正確に測定するのに適しているが、広い範囲のうちどの部分に圧がかかるかの測定には不適切であることが見てとれる。
今回はシワや折れ曲がりにも強く、局面にもフィットしうるシートセンサーを用いることで、どの部分に圧がかかるかを可視化した。
このシートセンサーを用いて、最初に、洋装時の圧分布を平面表示と3D表
示で示すことでシートセンサーを用いての圧測定への理解を促したい(図4) 。
圧がかかるほど平面表示では濃く、3D
表示では高く表示され図 3 バルーンセンサーでの圧測定6る。
右端のマネキン上に圧の高い部分を赤く表示した。ウエストベルト
の部分に一致して幅2センチの高い圧分布がある(最大34mmHg) 。つまり洋装でベルトを腰に締める服装では、ベルト直下に高い圧がかかっていた。自覚的にもこの部分を締め付けられている感覚があった。
ついで、 (図5)にきもの常用者における腹部の圧分布を示す。洋装時と同様の向きで撮影したもので、
中央やや上部にウエストラインがあるが、ウエスト部分には圧はかからず、腸骨上部と、前面の下腹部、および肋骨下部には吸気時に増強する軽い圧がかかっていた。腸骨上部は帯の最下面が接するところである。
つまり帯圧は腸骨上部と前面の下腹部に安定して乗っていた。圧力の面が広く、したがって痛みは感じない状態であった。
これとは別に肋骨下部には吸気時に増強する軽い圧がかかっていたが、この圧分布に一致して、帯揚げ
図4 洋装時のウエスト部の被服圧測定結果と、マネキン上での圧模式図図5 きもの常用者での腹部の圧分布
[吸気時]
[呼気時]
7
の紐が通っていた。最大圧はこの肋骨下部で、
21mmhgであった。
このようにきもの常用者においては、帯は腸骨上部と、前面の下腹部に幅をもって接し、上腹部には帯圧は認められなかった。
自覚的には 「帯の着用が心地よい」と感じられ、帯と腹部前面には約3センチの隙間が見られたことは、
それを裏付ける結果であった。
同じ着用物を用いて、ほとんどきものを着用した経験のない女性にきもの着付け師の免許保有者が着用させた場合の帯圧を (図6) に示した。
(図5)と異なり広い範囲で帯圧を生じていることが示された。帯の上部にも圧分布が見られることから、
帯の上部が体表を圧迫していることがわかる。自覚的には「苦しい、早く帯をといてしまいたい」とのことであった。
以上のことから、一般に言われる「帯が苦しい」という声は、着付け方法の問題であることが示唆された。
つまり本来帯は苦しくないようにできているものであり、自分で着用できない者は他者がきものを着付けるために、
異常に高い帯圧となることがあるというだけのことと考えられた。

きものは冬寒い?
最後に、 「きものは冬寒い」との声に対して、まず室温を一定にした場合の洋装時と和装時の平均皮膚温を測定した。
次にもっとも快適と感じる室温に自分で室温を調整する方法で検討した。
測定には恒温室を用い、被験者は57歳の女性であった。測定は平成23年2月に実施した。
着衣としてはビジネスシーンでの室内での活動場面を想定し、洋装は通常の洋装時の下着・パン低ストッキング・Tシャツ・
ビジネススーツ、和装は肌襦袢・裾除け・パッチ・長襦袢・長着(鮫小紋の袷) 、名古屋帯を着用した(図図6 きもの初心者での腹部の圧分布
[呼気時]
[ マネキン上で の 圧 模 式 図 ]
[吸気時]87) 。
まず室温を18°Cにした場合の洋装時と和装時和の平均皮膚温の測定について述べる。皮膚温の測定には温
度ロガーを用い、恒温室内で十分な時間(1時間)を座位にて静かに過ごした後に、標準的な皮膚温の測定方法に従い7点(前額・腹部・前腕・手背・大腿・下腿・足背)で1時間にわたり皮膚表面温度を測定し、平均皮膚温を算出した。
その結果であるが、洋装時には平均皮膚温は32.14°C、和装時の平均皮膚温は33.01°Cと、和装時のほうが平均皮膚温が高かった。
各部の比較では、前額・腹部・大腿部・下腿部・足背では洋装より和装時のほうが表面皮膚温が高く、前腕はほぼ同
温、 手背は和装時のほうが低かった。
一般に皮膚温度は33°Cがもっとも快適と感じると言われているが、今回の検証では洋装時の平均皮膚温は33°Cに達せず、
和装時には達していたことから、和装であれば室温18°Cでも快適と感じることができることが示唆された。
また各部の皮膚温の
測定結果から、和装では体幹部と足
背の皮膚温が高く保たれていること
が平均皮膚温の保持につながってい
ることが示唆された。これらはきも
の常用者の「きものは暖かい」との
実感を裏付ける結果であった。なお
今回は特別な防寒具を使用しない状
態で測定を実施したが、実際には冬
期にはきもの着用時に長袖の下着の
着用など、さらに暖かい状態できも
のを着用しているものと考えられ
る。
ちなみに今回はきものの下着とし
てパッチを用いた。これは実際に冬
期にきもの常用者が一般的に用いて
いることから着用したものである
が、バッチを用いない伝統的下着の
みの場合には大腿部と下腿部の皮膚
温が低く、平均皮膚温も
32.47
°Cと、
洋装よりわずかに暖かいにとどまっ
た。きものは冬に寒いという感想は
伝統的な下着しか用いない場合の感
図7 実験に使用した洋装と和装
図8 洋装時と和装時の皮膚温
9
想の可能性がある。
以上、 「きものは冬寒い」との声
に対して、実際にはオフィス内での
きもの着用は
同様のシーンで適切
と考えられる洋装よりも暖かいこと
を示した。
衣服の保温性を表す指標としては
クロ値という数値が用いられる。こ
れは衣服の熱抵抗値(保温性)を表
す指標であり、 1クロとは気温
21
°C、
相対温度
50
%、気流
0.1
m
/
秒の条件
で、椅子に座り安静な状態で快適と
感じる衣服の量をさすとされてい
る。現在執務室等の冬期の室温は
18
°C以下に設定することが多いが、
室温
18
°Cに適する衣服のクロ値は
1.2

3.5
であり、そのほぼ中間のクロ値
22
に相当する衣服の量はコート・長
ズボン・靴下・厚いセーターである
とされる。つまり室温
18
°Cで洋装で
快適に過ごすには、コートを含むか
なりの衣類を着用する必要がある。
しかしこれでは外見上、かなりの厚
着感がありビジネスシーンに適する
とは言えない。それに比べ、長着に
帯のきもの姿は厚着感はなく、今後
のビジネスシーンでもっと活用され
るべきであろう。
次にもっとも快適と感じる室温に
自分で室温を調整する方法での検証
を実施したところ、洋装で最適と感
じたのは室温を
24

26
°Cに設定した
ときであった。一方和装で最適と感
じたのは室温を
20

22
°Cに設定した
ときであった。
もっとも快適と感じる室温に自分
で室温を調整する方法での検証でも
洋装に比べ和装では4°C程度低い室
温で快適と感じていたことはとくに
重要と思われる。現在、きものを着
用しての勤務が認められているオ
フィスは少ないが、今後節電が強く
求められる中、洋装をきもの着用に
変更するだけで室温をかなり低く設
定でき節電やエコにつながることを
認識し、ビジネスシーンでのきもの
着用を推奨いただきたい。
最後に
きものと健康についての研究は緒
についたばかりである。
女性のきものは終戦後に一挙にす
たれた。当時の資料を見ると、帯に
よる内臓の変移といった報告もみら
れ、きもの着用は旧弊のひとつであ
るだけでなく身体的にもマイナスの
影響を有するものと考えられていた
ことがわかる。近代的な検証方法が
確立された最近の研究においても、
きものと健康に関する論文は少数し
かない。しかもそのわずかな論文の
中で、きものが健康にプラスである
との記載がなされたものはさらに少
ない。つまりきものに関する過去の
研究は、きもの常用者が感じている
「きものは心身の健康にプラスであ
る」という実感を明瞭に検証してく
れるものではなかった。
今回実施した三つの研究で、きも
の常用者はきものを健康に良いもの
と捉えていて実際に健康的な生活を
10
送っている人が多いことが示唆され
た。また帯が苦しいのは着用方法が
適切でないためであり、着なれた人
においては帯は苦しくないばかりか
適度な圧分布をもたらす快適なもの
であることが示唆された。さらにき
ものは寒いと感じるのは伝統的な下
着類だけを用いている場合に強く感
じられることであり、多くのきもの
常用者は下着の工夫によって洋装時
よりも暖かく過ごしていることや、
きもの着用により冬期の室温を低く
設定できる可能性も示唆された。こ
のようにきものと健康の影響を明確
に検証してゆくことを「きもの健康
学」と名付けたい。
きものは複数の世代にわたり着用
が可能であり、古布となってもさま
ざまな再利用が可能であるなど、エ
コである点は以前から指摘されてき
たが、健康的である上に冬期の室温
設定においてエコであることが示唆
された。今後はさらにきもの健康学
の研究をすすめ、さまざまな条件下
でのきものの健康影響を検証してゆ
くことも含めて、健康という視点か
らきものの良さを再認識する機運を
広めてゆきたい。




本研究の推進にあたり、日本和装
師会会長
市田ひろみ様には多大な
ご理解とご協力をいただきましたこ
とを心から感謝申し上げます。
Study on the clothing pressure developed by
Yukata-In special reference to deformation of
dressing and sensory evaluation Tamaki Mitsuno
Kszuo Ueda Japanese society of home economics
J.Home Econ.Jpn.Vol 49 255-27 1998
衣服圧研究について
伊藤紀子
日本衣服学会誌
41
93-96 1998
被服着装時の拘束が人の心理・生理に及ぼす影響
杉本弘子
日本衣服学会誌
45
1-7 2001
浴衣着用時の被腹圧とその庄感覚~ウエストベルト
着用時の季節と月経周期の位相に関連させて~

羽寛子
三野たまき
日本繊維製品消費科学会誌
47
731-739
2006
若年女子の和服着用時の着心地と着方による衣服圧
の相違
岡部和代、大槻尚子、伊藤紀子
日本衣服
学会誌
50
53

60
2006
和服の短時間および長時間着用時の心拍変動からみ
た着心地
岡部和代
出口明子
大槻尚子
日本衣服学会誌
52
21-31
2008

◎参考文献
11
【要
旨】
次世代のきもの着用を促進するこ
とはきもの産業の振興に重要であ
る。本研究は次世代のきもの着用を
促進する道筋の研究の一環として、
どのような母親に働きかけることが
次世代のきもの着用につながるかの
解明を試みた。
女性がきものを着用する場面とし
て「成人式」 「祭りや花火大会」 「結
婚式のおよばれ」の3場面を選び、
幼稚園児の母親を対象に質問紙調査
を実施した。
成人式に関しては、母親世代のき
もの着用と関連なく多くの母親が娘
のきもの着用を希望していた。祭り
や花火大会での浴衣着用に関して
は、母親自身が祭りや花火大会でき
ものを着用している場合に高率に娘
にもきもの着用を希望した。結婚式
のおよばれに関しては、自身が結婚
式のおよばれにきものを着用する母
親のみならず、祭りや花火大会でき
ものを着用する母親も次世代でのき
もの着用を広めるキーパーソンとな
りうることが示唆された。
【緒


次世代のきもの着用を促進するこ
とはきもの産業の振興に重要であ
る。本研究は次世代のきもの着用を
促進する道筋の研究の一環として、
どのような母親に働きかけることが
次世代のきもの着用につながるかを
解明するために、母親世代に娘のき
もの着用を希望するかどうかについ
て調査したものである。
1
9
6
0
年代にはきものを日常
に着用している女性は
30
%であり、
和服と洋服を着用する女性は
44

と、多くの女性がきものを日常着
としていたことが報告されている
(1) 。しかし近年きもの着用してい
る女性は減少している。 その一方で、
上品、優雅、民族衣装として大切に
したいとの思いを有する若者が多い
ことも報告されている(2) 。
きもの文化の振興のためには次世
代のきもの着用を促すことは必須で
あるが、未成年から娘時代までに関
しては、母親世代の意向がある程度
●キーワード
母親のきもの着用
女児のきもの着用への影響
次世代のきもの着用を促進する
道筋の研究
(第一報)
~幼稚園児の母親調査から~
安倍
智子
高橋
裕子
奈良女子大学大学院
博士前期課程
奈良女子大学大
12
反映してのきもの購入やきものの着
用となっていることは容易に推察さ
れる。こうしたことから、次世代の
きもの着用を促すために母親世代へ
のきもの購入やきもの着用の働きか
けが必要となる。
では、どのような母親層に働きか
けることが次世代でのきもの着用や
きもの購入に効果的につながるので
あろうか。過去の研究においては、
子どもの洋装に及ぼす母親の影響の
報告はある(3) (4) (5)が、子
どものきもの着用についての母親の
影響の研究は調べた範囲で見つける
ことができなかった。
そこで、今回われわれは母親への
質問紙調査によって、どのような母
親が娘にきもの着用を希望するかを
明らかにすることを試みたので報告
する。
【対象と方法】
大阪府東大阪市の幼稚園児の母親
を対象に質問紙調査を実施した。
女性がきものを着用する場面として
「成人式」 「祭りや花火大会」 「結婚
式のおよばれ」の3場面を選び、そ
れぞれの場面で娘(女児)にきもの
着用を強く希望するかどうかを質問
した。同時に母親のきもの着用経験
やきものの健康影響をどう考える
か、母親のきもの着用経験について
も質問した。分析には
S
P
S
S

用いてX(カイ)2乗検定、 または、
フィッシャーの直接確率検定を実施
し、
p<005
(5%) を有意水準とした。
【結
果】
調査は
2
0
1
1
年7月
11

13

に実施した。
対象者
1
9
9
名、回収
1
5
6

(回収率
78
.
4
%) 。内訳は父親2名、
母親
1
5
1
名、 無効回答3名であっ
た。今回の分析には女児を有する母
親の回答
1
2
0
名のみを用いた。
回答者の属性としては、年齢(
24

44
歳、平均
35
.
0+4
.
1歳) 、職
業(専業主婦
93
名、パート
18
名、常
勤5名、派遣その他4名)であっ
た。また母親が自分できものを着る
ことができるかどうかについての質
問では、自分で着用できるとの回答
は8名(
6.7
%)にとどまり、112
名(
93
.
3%)は自分ひとりできも
のを着用できないと回答していた。
(1)きもの着用経験
ほとんどの母親は過去にきもの着
用経験を有していた(120名中
118名) 。
(2)きものの健康イメージ
きものを着用することは健康に良
いと思うかどうかの質問では、
31


25
.
8%)が「健康に良い」 、
84


70
%)が「どちらともいえない」
と回答し、 「良くない」 は5名 (
4.2
%)
のみであった。また子どもがきもの
を着用することが子どもの健康に良
いと思うかどうかの質問で
37
名(
31.
6
%)が「健康に良い」 、
78


66
.
7%) が 「どちらともいえない」
13
いて尋ねた。成人式では101名

84
.
2%)がきものを着用してい
と回答し、 「良くない」 は2名 (
1.7
%)
のみであった。
(3)娘にきもの着用を希望するか
どうか
きものを着用するように娘に希望
する母親は成人式に関しては
86


71
.
7%) 、祭りや花火大会では
36
名(
30
%) 、結婚式のおよばれに関
しては
17
名(
14
.
2%)であった。
なおこの三場面は現在きもの着用機
会が多い場面であるが、加えて成人
式でのきものは現在レンタルが主流
となっている場面であり、祭りや花
火大会は浴衣、そして結婚式でのお
よばれは振袖や附下訪問着の着用場
面でありレンタルではなく自身保有
のきものを利用することが多い場面
との特性がある。
(4)母親の日常のきもの着用経験
母親の日常のきもの着用状況を「成
人式」 、 「祭りや花火大会」 、 「結婚
式のおよばれ」のそれぞれにつ
図1-1 きものの健康イメージ(母親)
図 2 きもの着用を娘に希望するかどうか(機会別)
図1-2 きものの健康イメージ(子ども)